【テニプリ】a short story.【短編集】
第5章 【観月】君と林檎の樹の下で
ビービー、と。聞いたこともないような大きな音で、携帯からアラーム音…いや、これは警告音――が、鳴り響いている。
私の携帯からも、観月さんの携帯からも、周りにちらほらといた人達のそれからも鳴り響く音に皆がびくり、と反応し。それぞれ携帯の画面を見る。
「ミサイル、発射…?」
非現実的な言葉の並びに動きが止まる。周りの皆もどうして良いかわからないようで、ざわめきが起こっている。異様な雰囲気の中、観月さんを見やると、携帯でぽちぽちと何かを調べ、それから大きなため息をついた。
「何ボケっとしてるんです、千花っ」
そして、名を叫ぶと同時に、私の手を取って駆け出す。あれ、呼び捨てにされた?なんて、頭のどこかは冷静なのに、今の雰囲気がそれを口に出すことを許さない。
観月さんは私の手を離さないまま、凄いスピードで走り続ける。帰宅部の私にはついて行くのがやっとで、何度も足が縺れそうになった。
「千花さん、貴女最近ニュースを見ましたか?かの国がミサイルに燃料充填を始めた、という報道がありましたが」
これだけ走っても息一つ切らさず、観月さんが問いかけてくる。そんなニュースあったっけ、あれ、さん付けに戻ったんだな、色々な考えが酸素不足の頭を巡るが、とにかく息が切れて答えも返せない。
そうこうしている内に、大きな建物が見えてきた――チャペルだ。聖ルドルフのシンボルであるそれは、人気の少ない林の中にある。私がそこを訪れたのは入学式以来だったが、観月さんは鍵が開けられているのを何故か知っていて、ごく自然な動作で扉を開け、私を中に入るよう促した。
二人で中に入り、観月さんが扉を締める。チャペルは長いこと空気が入れ替えられていないのか少し黴臭く、埃っぽい。――ホコリが立つのは苦手だ、と近くを走った柳沢君にあんなに怒っていたのに、と思いながらくるり、とあたりを見渡す。石造りのそこは少し肌寒く、窓も締め切られていて仄暗い。しかしステンドグラスからきらり、と差し込む朝の光があちこちに散らばって、それはそれは幻想的だった。
非常事態でなければ、浮かれていたに違いない――そんな事を考えた瞬間、また鳴り響く警告音。辺りに反響して先ほどより大きく聞こえ、体が強ばる。観月さんが携帯を素早く取り出し、通知を確認する。