【テニプリ】a short story.【短編集】
第5章 【観月】君と林檎の樹の下で
次の日の朝、私はいつもより早く家を出て学校に向かっていた。観月さんに数学のノートを返すためだ。
昨日あてられた後、黒板に書かれた問いを眺めてみると、それは彼のノートに「重要!!」と記されていたものと全く同じで。その部分に自然と気を取られていたため、簡単に解くことが出来た。
答えられないと思ってあてている先生もぽかん、としながら丸つけをする。予習をしてきたのか、やるじゃないか松元――そう、珍しく褒められながらも何処か私は夢心地だった。
先生曰く、予習をしていないと解けない、応用的な問題だったという。自分一人では確実に解けていない―――もしかして、私があてられるのを予測していた?しかも問題の内容まで?
その答え合わせがしたくて、ホームルームが終わってすぐに観月さんのクラスに向かう。そう言えば、彼のクラスに自ら来たのは初めてだった。しかし、チームメイトの赤澤くんが出てきてくれて、彼はもう部活に行き、居ないという。
「すまねぇな、松元。ノートなら、俺が預かっとくけど?」
そんな言葉を丁寧に固辞して、テニスコートに向かってみる。彼は既に後輩らしきテニス部員に熱心に指導を始めており、声をかけられる雰囲気じゃなかった。自分の知る観月さんとは違う――いつも物腰の柔らかい彼が、時に厳しい言葉を使い。ゆったりとした動作の彼が、素早くコートを駆け回り。時たま私に触れる彼の優しい手が、力強くラケットを振るっている。
暫く見とれて、それからそんな自分に気付き、何故だか逃げ出したくなって、走ってコートを後にしたのだ――結局彼のノートを持ち帰る羽目になり、そして今に至る。
今日は朝練が無い、と柳沢君にメールで確認してある。そして、彼の登校時間が人より早めだと言うことも。何故そんな事を聞くのか、と面白そうに質問してくる柳沢君をかわすのには苦労した。
そして、前方に観月さんを見つけ、駆け寄る。ふわふわと、天使のように柔らかそうな毛が朝日に光っている。そして、彼も私の足音に気付いたらしく振り返った――その時。