【テニプリ】a short story.【短編集】
第4章 【跡部】こんな未来が有るのかも知れない
「やー、青学!楽しかった!テニスプレイヤーに悪人はいないのねっ」
夕暮れの帰り道を、跡部と並んで歩く。昼過ぎには着いていた筈なのに、気付けばこんな時間だ。短時間ですっかり打ち解けた青学のメンバーと、近い内の再会を誓って別れてきた。
「そうだとしても、次の勝ちは譲らねぇけどな」
「それは勿論、そーでしょ!」
そんな話をしながら、通りがかりに見つけたショーウィンドウに写る自分の姿を見つけ、立ち止まる。やはり自分の顔はいつも通りで、跡部のあの字も書かれていない。なぜ皆すぐに気付いたのかをぼんやり考えている内に、跡部は随分先に進んでいる。
「ちょっと、待ってよあとべっ…」
名前を呼んでも止まらない跡部、聞こえる距離と声の大きさだったのに。そこで態とだな、と思い当たる。
「ーーーっ、けいごっ」
そこで漸く立ち止まり、くるり、と振り返る。今日一日の流れで随分ノスタルジックになっているらしい私は、その笑みの中に、昔の跡部が見えたようで嬉しくなって駆け寄った。
「二人の時は、ってお前が言い出したんだろう、千花。アーン?」
追い付いた私は、差し出された手を取り、そしてまた二人は並んで歩き出す。昔とは違う距離感と、この男は私の物だという優越感、そして手を繋いだ部分から伝わる温もりと多幸感に酔いしれる。
跡部、もとい、景吾は好きだ、と告げたその日から直情的になり、真っ直ぐ思いを伝えてくれるようになった。私はと言えばまだまだそれに追いつけず、二人きりにならなければ何の行動も起こせないまま。そのままでも構わない、と言ってはくれても、変わりたいと思う自分も確かに何処かにいるのだ。