【テニプリ】a short story.【短編集】
第4章 【跡部】こんな未来が有るのかも知れない
「けいご」
名前を呼んでみる。返事はなく、代わりに視線が返ってくる。いつか見たような既視感、それだけの時間を過ごしてきたのに、まったく慣れない。そして飽きもしない。
何も言わない私を不思議に思ったのか、のぞき込んでくる景吾。悪戯心が湧き、その頬に掠めるようにキスをしてやると、顔が一瞬赤らんで、しかしすぐに元に戻った。
「…俺様の家に、寄っていくだろ?千花」
まぁお前に拒否権は無いけどな、と笑う景吾が、いつも通りに見えて、しかし何かが違っていたなら。私と同じように、焦がれるような気持ちを抱えていてくれたなら――返事の代わりに頷くと、満足気な笑みを浮かべた景吾がまた私の手を引いて歩き出す。
泣きたくなる程綺麗な夕焼けの中、朧雲に霞んだ月が浮かぶ空を見上げる。もうすぐまた、いつも通り、しかし確かに何かが違う春が来るのだ、と予感させるような。