【テニプリ】a short story.【短編集】
第4章 【跡部】こんな未来が有るのかも知れない
「あとべぇええええっっっ!!!」
コートに向かって思い切り叫ぶと、青学の生徒ばかりがぎょっ、と振り向く。当の跡部は目の前のボールを追いかける事に熱中しているようだ。手近のベンチにブレザーを放り、カッターの袖をまくり上げている。
「…あの跡部を呼び捨てにするとは、流石、氷帝の松元マネージャー…」
ブツブツと何かを言いながら、何かをノートに必死にメモしている男子生徒がいると思えば、相変わらずだなぁ、なんて言いながら優しい目で苦笑している者もいて。
先程から、何故自分だけが知られているのか?いい加減疑問に思い始めた時、やっと熱い打ち合いは終わり、跡部とその相手をしていた男子生徒がこちらにやってきた。
「あとべっ、アンタ勝手にさっさと進んで何してんのよっ」
「アーン?千花、テメェが勝手にはぐれて行ったんだろうが」
その言葉にぐっ、と何も言い返せず。思いあたる節がないことも無い――押し黙っていると、跡部の隣に立つ対戦相手からジロジロと見られている事に気付いた。
「あっ…越前、くん?」
「そーッス、ども」
彼の事はよく知っていた。他校生で、二つ下ながら、跡部が認めたというテニスプレイヤー。あの死闘は、思い出すだけで心臓に悪い程鮮烈だった。それからも偉そうな跡部と不遜な越前くんはウマがあったのか、何度か一緒に会ったこともあった。アメリカに武者修行に行ったと聞いていたが、戻っていたらしい。
「…なんか、おっきくなった?」
「アンタ、俺を幾つだと思ってるんスか」
頭一つ大きくなった越前くんを見上げる。昔はがっくんより、勿論あたしよりちっこかったはず…すっかり男の人、になっている越前くんは、顔は何処か幼さを残しているのに、眼はギラギラと鋭く、何処か昔の跡部と被って見える――