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【テニプリ】a short story.【短編集】

第3章 【不二】雪に白鷺、闇に烏、錦に恋





「こっっっわ…それ、こえーな、こえーよ…!!!」


逃げるように部室を出た私に、どうしたのか、と尋ねてきた桃に一部始終を話す。桃は青い顔をしてガタガタと震えだした。


「不二先輩は怒ると部長よりこえーからな…千花、お前、怒らせちまったんじゃねーか?」
「手塚部長より怖い?あの不二先輩が?いやーまさかそんな!」


あの優しくて柔らかい雰囲気を纏う先輩が怖い、なんてそんな事――はは、と笑ってみるも、先程の雰囲気を想像すると自然と身震いがする。あながち言い過ぎとも言えないらしい、桃のビビりっぷりに私まで怖くなってきた。


「おまけに占いやまじないなんかもよく知ってるみたいだしよ、お前呪われちゃうんじゃねーか…」


蒼白な顔でそう続ける桃は本気で怯えているように見えた。そんな馬鹿な事、と言いかけたその時。背後の壁から出てきた先輩がトン、と桃の肩を叩いた。


「…楽しそうだね、桃城?何の話かな」
「ひっっっっ!!!不二先輩っっ」
「あまり千花ちゃんをからかい過ぎないように…本気にしてしまうといけないから、ね」
「は、はいっっっ」


――そーいや俺、走り込みの途中だったわ!!そう叫んで走り去る桃はいつもより速い。さっきまでどう見ても休憩、もしくはサボり中だったのによく言うよ、と思いながら見送る。




「千花ちゃん」
「は、はいっっ!!」


さっきの桃の勢いが移ってしまったのか、少しどもりながら答える私に先輩は苦笑した。眉尻を下げた、少し困ったような、でも綺麗な笑顔。この顔も、初めて見た――


「ごめんね、俺の態度が怖がらせてしまったみたいだ」
「いえ、そんな…私の方こそ、わざとじゃないとはいえ盗み聞きしたようになってしまって」


すいません、と頭を下げる。もう不二先輩はいつも通り、ニコニコ笑いながらいいよ、と言ってくれた。先程とは一変して、柔らかい先輩独特の空気が流れる。それは、私の思い描く通りの先輩の雰囲気。物腰柔らかに見えて、その実、心中を決して見せないような。


――でも、



「かっこよかったぁ…」
「…え?」



先程のことを思い出し、ついつい心の中が声に漏れていたようではっと口を押さえる。そう、いつもより低い声も、キリッとした表情も、ただでさえイケメンな不二先輩の魅力をさらに増していた。

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