【テニプリ】a short story.【短編集】
第3章 【不二】雪に白鷺、闇に烏、錦に恋
「な、何でもないんです!気にしないで下さい!」
ぶんぶんと顔の前で手を振って、やり過ごそうとする私を不二先輩はいつものように優しく見つめ――そして、ふふ、と笑った。元から格好いいのは勿論知っていた、でも、今まで何処か避けていた分、ここまでまじまじと顔を見たことは無くて。どんどん顔が熱くなっていくのを感じ、俯こうとしたその時、不二先輩が口を開いた。
「そんなに嬉しい事を言ってくれるなら…千花ちゃんの前ではいつも、こんな俺で居ようか」
にやり、と口角を上げて。見たこともないような、挑戦的な笑みを浮かべる不二先輩に見蕩れる。その目がまた、私を真っ直ぐ見ている事に気付き、不思議な嬉しさと同時に恥ずかしさがどっと押し寄せてくる。
「た、たまにでいいです…私が、もちそうにないので」
「ふふ、そう?じゃあ、たまに、ね」
次の瞬間にはもう、元通り。いつも通り優しい笑みを浮かべた不二先輩がそこにはいる。まるで先輩の掌の上で転がされて遊ばれているようだ、と思った。
先輩の態度にいちいち魅了され、焦がされる。安心させられたかと思えば、どきり、とさせられ。こんなに表情豊かな人だったの?それとも、私が不二先輩の表情の変化に気付けるようになったの?
――もっと色んな顔も見てみたいな、そう思った時には既に、私は不二先輩に恋をしていたのかも知れない。