第9章 夏の終末りに想うこと feat:夜久衛輔
夏休みが明けて、始業式。俺は進路指導室に保管されている過去のアルバムを漁った。そして、5年前の卒業生の欄のそこには確かに、"蒼戸紗凪"の文字はあった。
集合写真の右上。切り取られたその空欄に、済まし顔の紗凪がいた。俺が知る紗凪よりも、少し髪は短くて、まだあどけない少女の顔立ちだった。きっと、事故に合う前に撮られたものなのだろう。
その帰り、俺は花屋によった。そして、紗凪から匂ったのと同じ、甘い香りのする花を選んで、花束にしてもらって。そして、あの公園に向かった。
「紗凪………もう、いないよな」
呼び掛けても、返事はない。彼女がいつも座っていたブランコに、そっと、花束を載せた。手を合わせ、そして目を開けると、白いワンピースの少女が。
「紗凪っ!?」
ぱち、と瞬き一瞬の間に、やはり姿は消えていた。そんなわけないよな、と笑って、ふと公園の隅に何かが転がっているのに気付いたんだ。
近付いて拾ってみると、それは俺と紗凪が使っていたバレーボール。軽く手の中で懐かしむように転がして、何かが書いてあることに気付く。
「…っ、これ……」
そこには、紗凪ものと思われる文字が。
"衛輔くん、ありがとう
それと、本当にごめんね
大好きだよ
生きてる時に、会いたかったなぁ"
そんな、たった4行の言葉から、痛いほどに紗凪の存在を感じた。パタ、と水滴がボールに落ちる。
「ハハ、俺バカだなぁ……ちゃんと紗凪に、言えばよかった。俺も、好きだって………」
ふわり、風が吹き抜ける。
『知ってるよ』
どこまでも蒼い空の下で、
そう、紗凪が答えてくれた気がした―――。