第1章 彼はお医者さん【一松/医者松】
《愛菜side》
「じゃあ、お大事に……」
「ありがとうございました」
頭を下げ、診察室を出る。はあ、ドキドキしたぁ。
そっか、一松くん、ここで働いてるのかあ。もう少し、高校時代の話とかしたかったなあ。まあ、無理だよね。勤務中だもん。でも、変わらずかっこよかったな。
会計を済ませ、処方箋を貰うと病院を出た。
えっと、薬局に行かないと……。
すぐ近くにあるという調剤薬局を探していると、後ろからバタバタと足音が追いかけてきた。
「愛菜!」
振りむくと白衣姿の一松くん。
「あ、一松くん! どうしたの?」
「あ、あの、久しぶりにあったから、な、なんて言うか、む、昔の話とかしたいって言うか……」
「うん」
「でも、まだ患者いるから……そ、その、よかったら、こ、今度……」
一松くんが小さなメモを渡してきた。
「それ、おれの電話番号とメッセのID……。で、でも、こんなクズの番号なんか知りたくないですよね……。ゴミ箱に捨てて……じゃ……」
一松くんは一気に言うと、踵を返し病院に戻っていく。
私は、慌てて後ろから声をかけた。
「一松くん、ありがと! 後で電話するね!」
振り向いた一松くんが目を見開き、みるみる赤くなった。
マスクをずらし、そっぽを向きながら呟く。
「でも、まずは安静に寝て……」
これから始まりそうな恋の予感に胸が高鳴った。
たまには風邪ひくのも悪くないかなあ?
―END―