第35章 水とワイン/Água e Vinho【おそ松/マフィア松】
「どう? 俺の鼻、曲がってる?」
「い、いえ! そんなふうには見えないですけど……」
「本当に? 腫れてたりもしない? よく見てよ」
「は、はい!」
愛菜がさらに顔を近づける。
バーカ。折れてるわけないだろ。
愛菜の頭に手をやり、ぐっと引き寄せる。柔らかくみずみずしい唇に自身の唇を重ねた。
「んっ……!?!?」
驚いた愛菜の息が乱れる。
俺はかまわず彼女の唇を吸った。
好きだ、愛菜。ありがとな……。
「んっ……ンんっ……」
愛菜が離れようともがく。
離すもんか。永遠に。
愛菜の唇を舐めると、熱く漏れる息。その隙に舌を差し込み、絡め合う。
だめだ。これだけでもう俺、幸せすぎて。なんか他のことはどうでもいいや。
「ん……ンッ……」
静かなぶどう畑に響く水音。
「愛菜……」
「オソマツさんっ……」
一旦唇を離しても、また重ねずにはいられない。
おまえをワインに染める?
とんでもない。
染められたのは俺のほうだ。毒気を抜かれてすっかり水になっちまった。
「っ……愛菜、好きだ……。ずっと一緒にいてくれるよな?」
「はい。ずっと一緒にいます。大好きです……!」
これからは俺が守るよ。全力で。
遠くから車の音が聞こえる。たぶん、あいつらだ。
「あ〜! なんか喉が乾いたな。なあ、愛菜。帰ったらワインを飲もうぜ。極上のやつ。弟たちに内緒で隠してあんだよ」
愛菜がくすっと笑った。
「大丈夫ですか? 見つかったら怒られますよ?」
「だよなぁ〜。特にカラマツとチョロマツがうるさくてさぁ。絶対に言うなよ?」
もう一度愛菜を引き寄せる。
ワインを飲むまで口寂しいんだからしかたない。
再び口づけた愛菜の唇は、甘いぶどうの香りがした。
―fine(終)―