第32章 咲き乱れよ愛慾の長春花【逆ハー/三国志松】
「くっ……! 失態!」
後ろ手に縛られ、私は目の前のおそ松帝を睨んだ。
まさかこんな容易く捕まろうとは。
誰にも悟られぬよう忍びこんだはずなのに、帝(みかど)の住む邸にはあろうことか床一面に散らばるウ○コと桃の果汁。
足を取られた私は盛大にすっ転び、あっという間に猛将カラ松に捕らえられてしまった。
こうなったら逃げられない。すわ、斬首か? 覚悟を決める。
しかし、ただ首を斬られるわけにはいかない。死ぬ前になんとしても赤壁(せきへき)での父の屈辱を晴らしたい……。
私は口を開いた。
「そなたがおそ松帝か? 我が名は、愛菜! 魏の丞相(じょうしょう)・曹操(そうそう)の娘である。赤壁でおまえたちの姿を見た者がいる! 龐統(ほうとう)という男を我が国に送り込んだのはおまえたちか?」
そう、私がこの『松』というワケの分からない国に単身乗り込んだのには理由がある。
なんやかんやで、ここはなんちゃって三国志の世界。西暦208年、中国後漢末期。私の父・曹操は、赤壁の戦いで劉備(りゅうび)軍に大敗してしまった。
敗れた原因は、水軍の全滅。水上での戦いに不慣れな私たちに『舟を繋げば、陸と同様に動ける』と父に助言した龐統という得体の知れない男がいた。
まんまと策にハマり、舟を繋げたところ、一気に火攻めに遭い、我が国は負けてしまったのだ。
その龐統という男を『松』という謎の国が送り込んだのではないか、と兵士たちの間でまことしやかに囁かれ、私は真相を探るべく忍び込んだ。