第31章 きれいきれいしましょう【カラ松】
ザァッと夏の夕立ちのような音。激しく地面を叩きつけているのがわかる。跳ね返った水滴が頬に当たって不快だ。
「ん……」
私は顔をしかめながら目を覚ました。
「起きたか、マイハニー」
懐かしい声が聞こえた気がした。
頭が重い。ぼんやりしている。
いつから雨が降っているの? ベランダに洗濯物は干していたっけ?
徐々にクリアになってきた視界に映ったのは、勢いよく降り注ぐシャワー。雨が降っているわけではないことに気づいた。
え? 何?
目の前に広がっていたのは薄暗いバスルーム。まったく見覚えがない場所だ。大きなバスタブにはたっぷりと湯が張られ、青色の花が浮かべられている。
ここどこ? 私、お風呂に入っていたっけ?
頭が少しずつはっきりとしてきた。
あれ? 背中がひんやりする。……そっか、私は裸なんだ。たぶんタイルの壁にもたれかかっている。お尻は冷たくないから椅子のようなものに座っているに違いない。でも、どうして……?
そのとき、私の敏感な場所に温かい風が当たった。
「っ!?」
視線を落として私は息を呑んだ。
男の頭。
開いた股のあいだから男が顔を半分ほど出している。
「きゃあああっ!!!!」
異様な光景に思わず叫んでしまった。
「グッモーニン、ハニー。よく寝ていたな」
よく知っている低音のきれいな声。
この男が誰なのか私にはすぐわかった。
「カラ松……くん……?」
3ヶ月ぶり。もう会うことはないと思っていた元カレが全裸で膝をついて見上げている。当たった風は彼の鼻息だったようだ。
「何をそんなに驚いてるんだ、ハニー?」
優しく微笑むカラ松くん。
「な、なんで……」
どうしてカラ松くんがいるの?
何度頼んでもなかなか別れてくれなかった彼。揉めに揉めた末、なんとか逃げ切り別の街に引っ越した。仕事も携帯も変えて心機一転。新しい電話番号や住所は、もちろん身内とごく一部の親しい人にしか教えていない。やっと解放されたと思ったのに。
「なんでって何がだ? 一緒に風呂に入ってるだけだろう?」
「は? 何言ってるの……」
ゾッと冷たいものが背に走る。状況がまったくわからない。