第27章 ぼくは紫陽花(あじさい)【十四松】
「いい天気だよね……。あつい……」
一松兄さんが目を細めると、トド松も頷く。
「ほんっと、梅雨明けて一気に暑くなったよねっ」
ぼくたちは家に向かって並んで歩き出した。隣を歩く愛菜が自然と手を繋いでくる。
「ね、お兄さん、あの公園」
愛菜が小さく耳打ちしてきた。
見ると、ぼくらがいつも会っていた公園の前まで来ていた。あの日以来、ぼくも愛菜も公園には行っていない。愛菜がレンタル彼女のアプリをやめて、行く必要がなくなったからだ。
「ねぇ、愛菜ちゃん、ぼくのこと今でも公園の紫陽花だと思うー?」
ふと思い出して尋ねると、愛菜は不思議そうにぼくを見た。
「紫陽花? 何の話? お兄さんは十四松でしょ?」
「あはっ! だよねー! ぼくは十四松だよねー!」
あの日の夜にした紫陽花の話。愛菜はもう忘れてしまったようだ。別に公園で見守る必要もなくなったからね。今はもっとそばにいるし。
「十四松、愛菜ちゃん、何してるの? 置いてくよー?」
チョロ松兄さんが振り返る。
「「はーい!」」
ぼくたちは同時に返事をして走り出した。
蝉の声が聞こえる。
今日はまだまだ暑くなりそうだ。
ぼくらのもとにも夏がやってきた。
―END―