第26章 大人の社会科見学【一松】
「はぁい。というわけで、松野幼稚園のみなさん、こんにちは」
全身を白衣作業服に包んだ男性が優しそうに笑った。
「「「「「こんにちはー!」」」」」
白衣を着た園児たちも笑顔で答える。
「今日はねぇ、うちのパン工場を見学してもらうよ。ちゃんとお勉強してねぇ」
「「「「「はーい!」」」」」
期待に胸を膨らませ、元気いっぱいに手を挙げる子供たち。
男性は後ろにいる私を見た。
「ああ、そちらの先生もよろしくお願いします。私は今日の案内を担当させて頂く松野一松です。他にも松野という従業員がいますので、名前で呼んで下さい」
頭を下げられ、慌てて私もお辞儀を返す。
「分かりました! こちらこそよろしくお願いします! 奥田です!」
「ふふふ、こんな可愛らしい先生と一緒なんて、みんなは幸せさんだねぇ」
一松さんはニコニコと微笑む。
「そうでしょー! 愛菜せんせいは、世界一可愛いんだよー!」
園児のおそ松くんが嬉しそうに目を輝かせた。
「ぼく、大人になったら、愛菜せんせいと結婚するんだぁ!」
カラ松くんが私の腕にしがみつく。
「えー! せんせいはぼくのお嫁さんになるんだよー?」
チョロ松くんが口を尖らせる。
十四松くんとトド松くんもワイワイと騒ぎ出した。
「ちょっと、ちょっと! みんな静かにしてね! パンを作っている人たちのお邪魔になっちゃうよ?」
私の言葉に園児たちは一斉に「はーい!」と返事をする。
「うんうん、みんないい子だねぇ。じゃあ、早速行こうか。たくさん見ていってねぇ」
一松さんは部屋のドアを開けた。
今日は園児たちを連れて赤塚パンの工場に来ている。パンを作る工程の見学をさせてくれるらしく、松野幼稚園では、毎年、年長クラスの恒例行事になっている。今年は、新任の私が引率を任された。