第23章 桜とぼくらの一週間【チョロ松/学生松】
愛菜といると、飽きないよな……。次から次へと大騒ぎだ。
彼女の人生は、毎日が大ニュースで溢れている。いつも全力、100%の愛菜で生きている。そんな彼女と過ごす未来は、きっとワクワクすることだらけに違いない。
「チョロ松くーん!」
先に着いた愛菜が僕を呼ぶ。
息を切らしながら、愛菜の隣に駆け寄ると、彼女はまっすぐ桜の木を指差した。
僕も視線を移す。
花は落ち、葉桜になっている。でも、よく見ると、一房だけ桜の花が残っていた。萎れることなく、きれいに咲いている。
「嘘だろ……」
僕は木に近づき、花を覗き込んだ。
可愛らしい薄桃色の花が風に揺れる。迷いなく咲き誇るその様子は、どことなく愛菜を思わせた。
「だから、言ったでしょ? 咲いていると信じてるって」
愛菜がすぐそばに来て、朗らかに言い放つ。
「…………」
僕は呆然と愛菜を見た。得意げな彼女の瞳は、春の陽の下でキラキラと輝いている。
「ね? だから、言うこと聞いてね、チョロ松くんっ!」
愛菜がふふふっと笑いながら、僕に抱きついた。
「分かったよ。で、何を聞けばいいの?」
腕に愛菜のぬくもりを感じる。背中に受けている春の日差しよりも暖かいかもしれない。
友情バランスなんて気にしていたのが馬鹿みたいだ。これからは、大好きな愛菜と一緒に色々なものを見たい、経験したい、味わいたい。友達としてじゃなくて、君のカレシとして。
「あのね、私がチョロ松くんに聞いてほしいのはね……」
小声で話し始める愛菜。
僕は桜の花を見つめながら、彼女の言葉に耳を傾けた。
―END―