第22章 大統領には押させない!【トド松】
「奥田さんっ! 奥田さん、早く! 引き出し閉めて! 今のうちぃい!」
トド松補佐官の悲痛な叫び声が執務室に響き渡る。
私は大統領の机に向かってスライディングをキメると、素早く引き出しを閉めた。
危ないところだった。うっかり押してしまえば、シャレにならない事態になる。
息をついて振り返ると、トド松補佐官はまだ新大統領と格闘していた。
「押させてダス! 1回だけ! 1回だけダスから!」
昨日、大統領に選ばれたばかりのパンツ一枚の男――デカパン大統領が必死に叫ぶ。
「バカか、あんたは! 1回だけって、1回押したら全部終わっちゃうんだよッ!」
大統領側近の一人、トド松補佐官が顔を真っ赤にして返す。
私は溜息をついて、二人を眺めた。
大番狂わせとはまさにこのこと。国民の考えていることは本当に分からない。昨日行われた大統領選挙の結果は、まさかの穴馬、ノリで出馬したデカパン氏の圧勝。歴史に残る大統領選となった。
そして、今朝、執務室に現れた新大統領は、まず初めに大統領の机の引き出しの中にある『あのボタン』を押そうとしたのだった。
「大統領、お願いですからお静かになさって下さい。公務中ですよ?」
私が声をかけると、デカパン氏は暴れるのをやめて口を尖らせた。
「ホエホエ〜。だって、せっかく大統領になったのに、つまらないダスよ〜。ボタン押してみたいダス!」
「つまらなくていいんです。大統領とはそういうものですから。ボタンは押さないでください。戦争を始めるおつもりですか?」
トド松補佐官も頷く。
「奥田補佐官の言う通りですよっ。ボタンのことは忘れてお仕事しましょう!」