第20章 アクアリウムに沈む愛【カラ松、おそ松】
「そうか。何か飲むか?」
「あ、そうだね。喉乾いちゃった」
「オーケー、お姫様。戻ってきたら注文するから、選んでおいてくれ」
「お姫様って。カラ松くんってば、恥ずかしいこと平気で言うんだから」
愛菜がくすくす笑う。
オレも笑いながらバスルームに入る。
湯船に湯を張りながら、ふうっと大きく息を吐いた。
これでいい。これでいいんだ。全てはうまくいく。もう、おそ松のことは忘れよう。なかったことにするんだ。愛菜と幸せになるために。
しばらくぼうっと湯船を眺め、湯がたまったのを確認するとバスルームを出る。
「愛菜、風呂入れるぞ。愛菜?」
戻ると、ベッドの中で寝息を立てている彼女。
「なんだ……寝てしまったか……」
彼女の寝顔を覗き込むと、睫毛と頬が濡れていることに気づいた。
……泣いていたのか?
「愛菜、大丈夫だ。オレがずっといるからな……」
オレは愛菜の頭をそっと撫でる。彼女が寝返りを打った。
「ん……おそ松……くん……」
オレは固まる。
何だって? 今、何と言った?
愛菜の顔をもう一度見る。さっきと変わらず、すやすやと気持ち良さそうに眠る彼女。
「愛菜……お前、やっぱり……」
ああ、オレはいつまで経ってもこの水槽から抜け出せない。溺れることができれば、いっそ楽なのに。オレはこの水の中をどこまでも漂い続けるんだ……。
オレはベッドに突っ伏した。涙がシーツを温かく濡らしていく。彼女が目を擦りながら起き上がるその時まで、オレは静かに泣き続けた。
―END―