第19章 アクアリウムに浮かぶ恋【おそ松、カラ松】
体を引きずりながら、のろのろと展示室に戻る。中に入ったところで、愛菜の声が聞こえた。
「ごめんね、カラ松くん。一人で行っちゃって」
カラ松の声も聞こえる。
「フッ、いいさ、ハニー。見つかってよかった」
顔を上げると、カラ松の腕にしがみつく愛菜の姿が目に入った。
あの尻、あの背中、あの胸、あの腰……。
さっき俺が愛したばかりの身体。
「カラ松くん、見て! 赤いクラゲ!」
まるで初めて見たかのように水槽を指差す愛菜。カラ松が笑いながら応じる。
俺は呆然と二人のやり取りを眺めていたが、ふと目の前にある水槽を見た。
白いクラゲがゆっくりと漂っている。
――これは俺だ。
クラゲから目を離せない。
泳がずに漂うのは簡単だ。考えなくていい。傷つかなくていい。
波に揺られて時間が経てば、それなりの場所には辿り着いている。そこが最良の場所かどうかは別として。
「カラ松くん、このクラゲきれいだね……」
愛菜がうっとりと声を出す。
「ああ、本当だな……」
カラ松も答える。
俺は目を瞑り、水槽のガラスに額をつけた。ひんやりとした感触が俺の頭を冷やしていく。
水面で反射した光はここまでは届かない。無数の泡と共にぷかりと浮かんでいった恋。ここから手は伸ばせない。俺がいるのは、アクアリウムの水の底だ――。
二人の楽しげな声が展示室に咲く。俺は水槽にもたれたまま、いつまでも目を閉じていた。
―To be continued...
カラ松視点編に続く――。