第10章 お持ち帰りの長い夜【一松】
一通り拭き終わると、おれは愛菜ちゃんに抱きついて首元に顔を埋めた。
あーなんか心地いい……。落ち着く匂いにがする……。あれ? これって、もしかして……。
おれは顔を上げた。
「あのさ……まだ帰らなくてもミーコは大丈夫なの?」
「うん。この時間はたぶんベッドで寝てるんじゃないかな。急にどうしたの?」
おれはヒヒッと笑ってみせる。
「あんたって、猫の匂いするよね……。だから思い出した」
「ええっ!? うそっ! 猫の匂い!?」
愛菜ちゃんが勢いよく起き上がり、慌てて自分の腕や足を嗅ぐ。
おれはそんな姿をニヤニヤと眺めた。
「大丈夫。クサイとかじゃないから……。たぶん、おれにしかわからない……」
「ほんとに? いつもミーコと一緒に寝てるから匂いがついていてもおかしくないけど……」
愛菜ちゃんはまだ一生懸命自分の匂いを確認している。
うん、これは猫が好きなおれにしかわからない匂いだから。
おれはまた抱きついた。
「ねぇ、今度、ミーコに会わせてよ……」
「うん、いいよ。今度、家に遊びに来て。ミーコも喜ぶと思う」
彼女の柔らかい頬にキスをすると、おれはそのまま胸元に唇を滑らせた。
「……で、とりあえず、もう1回ヤらない……? 今度はアレで……」
ベッドの横のSMチェアにちらりと目をやる。
「え〜どうしよっかな〜」
愛菜ちゃんがふふっと笑った。
今夜はやけに長く感じる。
そりゃそうだ。おれだけじゃない。二人分のいろんな気持ちがごちゃ混ぜになっている夜だから。
おれはキスをしながら愛菜ちゃんを抱きかかえると、SMチェアに向かった。
夜明けまではまだ遠い。
お持ち帰りの夜はさらに長くなりそうだ。
―END―