戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第54章 はじまり ―葵の君&光秀源氏―
遠くから殿方たちの宴席のざわめきが聞こえる。
貴族の女人は顔を見せる事ははしたないこと故、屋敷の奥深くで生活している。
今宵も父様や兄はお客様を迎えて宴を楽しんでいるのだ。
現帝の信頼厚い左大臣の誘いを断る人は誰も居ない。
それが狭い貴族社会で生きていくための処世術なのだ。
私は檜扇を開いて顔を隠し、小さくあくびをする振りをした。
「そろそろやすみます」
そう言うと女房のひとりが御帳台の中へいざり、横になった私に着物を掛け静かにさがり、他の女房たちも離れたところで横になった。
今宵の宴に光る君が来ているのは知っている。
何のために?そう、私のところへ来るために。
貴族の正式な結婚は、殿方が三日間、欠かさず女人のもとに通い朝になると帰る通い婚、そして三日目に三日夜の餅を二人が食べて、晴れて結婚したと公に知らせるのだ。
光る君は本日、その一日目をしに私のところへやって来る。
だから私は眠くなくても横になっている必要がある。
しばらくして宴が終わったらしく、寝殿もしんとしてざわめきが聞こえなくなった。
いよいよ光る君が私の許へやって来る。
彼のひとが来るのを知っているのは、私の乳母で目付け役の女房だけ。
やがて、簀子のあたりに人の気配を感じ、人がするりと廂の間に入り、そのまま奥へと知ったように進んでくるのに気が付いた。