戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第29章 紫の巻―義元中将-<R18>
明石から戻った義元中将を、二条の院の西の対で、美しく成長した若紫、いや、今となっては紫の上と呼ぶにふさわしい品格を身に着けた女主人が待っていた。
義元中将は、匂やかな都の香を纏う紫こと舞を抱き締め、二度と離れないと誓う。
「もう、どこへも行かない。おまえを手放すなぞ、今の俺には考えられないな…」
舞は見上げて義元中将の顔を見て、真剣な瞳の色を揺らして言う。
「絶対、だよ?今後は私も連れて行って。もう一人にしないで」
舞の目の奥に万感の思いが有り、それは義元中将に受け止められる事だけを望んでいる。
勿論、諾、二度と一人にしないと誓おう、と義元中将は舞に口付けしながら答える。
義元中将に抱かれる舞と心を合わせ、この二年半の懸隔(けんかく)は消えてゆく。
宮中に参内(さんだい)した義元中将は、母違いの兄である朱雀帝より、自分が譲位(じょうい)する故、幼い新帝の補佐をするよう話しを承る。
『俺を遠ざけ、明石へ追いやったこの義兄を、俺は恨んでいるのか』
義元中将は自問自答し、わかっているのは、恨んではいないし、過去を恨んでもしかたない。
それに、この義兄は、故右大臣様と皇太后様の傀儡(かいらい)でしかないのだから。
体調不良から譲位を決められ、義元中将を都へ呼び戻したこの朱雀帝は、この後より少しずつ体調を戻し、一時は見えなくなっていた目も、以前程ではないものの見えるようになり、その側にはあの朧月夜の尚侍が静かに侍り、朱雀帝のこまごまとした面倒をみていた。