第137章 出産へ
「どうしたの?葉月?」
騒ぐ葉月の声に、母親が奥から出てくる。
「おかあさん、おかあさん、破水しちゃった、どうしよう」
慌てパニックを起こし、泣き叫ぶ葉月に、横にいた富谷が声を掛ける。
「救急車はもう呼びました。入院の荷物は用意してありますよね?それを至急ここへ」
母親も呆然としたが、富谷の呼びかけにはっとし、すぐ荷物を取りに行く。
「落ち着いて、大丈夫。すぐ救急車は来るし、あかちゃんはすぐ処置すれば大丈夫だから」
べそべそ泣く葉月に声を掛け続ける富谷。
そこへ母親が入院の荷物を持って来る。
「葉月、荷物これだけ?」
「うん、そのかばんだけ」
「あ、あの…貴方は…」
母親は若い男性の落ち着いた様子に驚きつつ、いぶかしむ。
「私は富谷と言います。弥生さんと同じ大学のサークルに所属してました」
「弥生の同級生のかた?時々来店されるかたですよね?」
「母がこちらのお菓子が好きで、お遣いさせられるんです」
富谷は葉月の母親に頭を下げる。
「申し遅れました。うちは隣町でトミークリニックという開業医をやってるんです。父が院長で兄が副院長、私はまだ研修医なので大学病院にいます」