第87章 茶屋を卒業
毎日が過ぎていく。
葉月は茶屋へ通い、富弥に茶屋の仕事を教えていく。
富弥は呑みこみも早く、町娘達からの人気もあり、あっという間に茶屋の看板となった。
「富弥さん、お茶とお団子くださいな」
「あら、私も同じです、富弥さん」
「こっちは羊羹とお茶をください」
毎日、富弥目当ての町娘達が、入れ替わり立ち代わり来るようにまでなってしまった。
「…富弥さん、すごい人気ですね」
葉月が富弥人気を驚いて、春に言う。
「ああ、本当だよ。仕事も覚えて丁寧に出来るようになっているし、そろそろあんたもここに来るんじゃなくて、竹ちゃんから花嫁修業を教えてもらう頃かもね」
「春さん、花嫁修業じゃないですよ、武家のたしなみを教えてもらうんです」
「おや、どっちだって一緒だよ」
春のしれしれとした言い分に、葉月はそんなものですかねぇ、と首を傾げた。
こうして葉月の茶屋での仕事は終わりとなり、秀吉の御殿で竹から武家作法を学ぶ事となった。
「姫になっても、食べに来いよ?」
富弥はすっかり兄といった体で葉月に接し、笑みを浮かべながら挨拶してくれた。
「はい、食べに来ますね。春さんもありがとうございました」
春にも挨拶し、ぎゅっと抱き着く。
「おや、抱き着く相手が違うよ?」
笑いながら春が言うと、葉月も笑いながら言った。
「同じ言葉、以前にも聞きましたね。こちらで働かせてもらう時に」
「ああ、そうだったね」
季節がもうすぐ移り替わる頃から、葉月は御殿で作法を学び始めた。