第11章 羊羹
「失礼します」
廊下から女中の声がする。
「お茶の支度をしてもよろしいですか?」
「ああ、頼む」
秀吉が了解を出すと、襖が開いて若い女中が失礼します、と入ってきた。
お茶と菓子の準備をしながら、三成をちらりと見るのを、秀吉は見逃さなかった。
『ああ、この娘も三成が気に入ってるのか。
しかしこういった事に全く頓着しない三成にも困ったもんだな…』
支度を終えると女中は下がっていった。
きっと女中の顔はほんのり上気し、恋する瞳は輝いてるんだろう、秀吉は思った。
しかし、そんな女中の様子に気付かなかった三成は、用意されたお茶と菓子に手も触れず、秀吉が手に入れたばかりという新しい兵法書に目を奪われていた。
「…これは後、だ」
兵法書を上から引っ張り上げ奪い、お茶と菓子を勧める。
「すみません、どうも新しい兵法書だと思うと読みたくて…」
恐縮する三成に、苦笑しながら秀吉は菓子を口にする。
「…んん?」
食べかけた羊羹をまじまじと見る。
「どうなさいましたか?」