第56章 見守る
葉月の部屋から少し離れたところに、秀吉と政宗が立っていた。
自分の御殿に帰る前に、葉月に挨拶だけしに行くと言った三成が戻ってこないので見に来たところ、竹が通りかかる。
「竹、三成を見なかったか?」
「三成様ですか?
葉月さんのところにお越しになって、そのままお部屋に入られましたよ。
あら、そういえば出てきませんわね」
含みを持つ竹の言い方と笑みに、秀吉はまゆをひそめる。
「竹、三成をけしかけたな?」
「さぁ、何の事でしょう?
でも、夜着姿の葉月さんはとても色っぽいのですよ。
三成様には目の毒でしたかしら。ほほ」
「竹…おまえ、やっぱり最強の女中頭だな…男をけしかける術まで知ってるのか」
参ったという体で秀吉は肩をすくめた。
「あー、そうすると、三成のやつ、完全に襲ってんのか。
じゃあ、さっきのれんこん料理を教えてもらうのは、また後で、か」
政宗が後頭部をぽり、と掻きながら言う。
「あいつ、あんなに手が早いとは思わなかったな」
秀吉も苦笑する。
「ま、こうなったからには、葉月も覚悟して抱かれてるだろ」
政宗は再度つぶやき、秀吉の肩をぽんと叩く。
「俺は帰るが、あの辺、人を近寄らせないで存分に二人きりにしてやれ」
「わかってる。俺が結局尻拭い、か」
全く仕方ない、とつぶやく秀吉だった。
そして二人はその場を静かに離れる。