第5章 Memories
ピンポーン。
女がインターフォンを鳴らすと耳馴染みの声がした。それは月島のお母さんで名前を告げただけで家に通してもらえる。いつものこと。でもこの日、いつもの違ったことは月島、山口以外のもう1人の靴があったことだけ。
「蛍ちゃん入るよ」
「そういうのノックして部屋に入る前に言いなよ」
「わかった。……あれ、忠は?」
「どっかいった」
「もう1つ靴があったけど」
「知らない」
「そう」
女はこれは何を聞いてもシラを切るのだろうと確信して追求をやめた。休んだと聞いた幼馴染みは存分元気そうである。ベッドに腰かけるときゅっと抱き締められた。
「体調は大丈夫?」
「うん、まぁね」
「ならよかった」
「つばめこそ大丈夫なの。明日大会デショ」
「大丈夫だよ。……いつも通りなんだし」
女は男を抱き締め返した。すがるように、いつもよりもキツく、深く抱き締める。そんな2人のベッドの下にもう2人いることも知らずに。