第5章 Memories
「日曜日? 予定はないけど」
「じゃあ出掛けない? 俺も部活休みだし、大会お疲れ様ってことでさ」
金曜日の朝、桜が散った若葉の下でそんなやり取りが行われていた。
男はあくまでもナチュラルにと気を配り、デートという単語を使わずに誘った。
「いいよ」
たったその三文字が男の心を震え上がらせた。
「ありがと! めっちゃ嬉しい!」
「!」
勢いのあまり、菅原はつばめを抱き締めた。
月島には後ろから抱きつかれることはあるものの正面からは初めてでつばめは少し戸惑っていた。
無反応なつばめに気付き、「ん?」を顔を覗くと初めて見た景色があった。
「つばめちゃん?」
「…………初めて、だから。前から抱きつかれるの」
「ごめん……でも離したくない」
「……そう」
初めて赤面した女を見た男は何となく期待している。
少しは自分のことを意識し始めてくれたんじゃないかと。
女は困っている、込み上げる初めての恥ずかしさに。
抱き締められるのは嫌じゃないらしい。
初めて感じたぬくもりは二人の想い出の一つになった。そしてもう一人にはとてつもない衝撃になった。