一泊二日温泉旅行に行ってみた【実l況l者/全l身l組】
第9章 am 6:00
旅館の敷地内にしては広すぎる庭園をゆっくりと歩く
池の上に架かっている小さな橋まで来ると、二人で欄干にもたれて話を続ける
「旅先は気持ちが大きくなるって言うけど、
キヨくん突然過ぎると言うか、素直過ぎると言うか…
ほんま変態やな。」
「え、ちょっとレトさん?
私そこまで言ってないからね。」
楽しそうに笑うレトさんに、つられて私も笑う
しばらく冗談を言った後、レトさんの表情が段々と暗くなる
「…でも正直、キヨくんが羨ましい。」
「え…?」
「今、キヨくんの存在が、柚月ちゃんの頭ん中を占領してるわけやから。」
その声色に胸が騒つく
苛立ちが含まれた言い方に、空気が変わったのがわかった
「他にもされたことがあるんとちゃうの?」
今もはっきりと残るキヨくんの言葉と体温
また見透かされている
レトさんは誤魔化せない
でも言えない…
恥ずかしいからだけじゃない
レトさんの気持ちを昨晩確信してしまったから
そんな煽るようなこと、言えるわけがない
言葉に詰まり黙っていると
横から溜息が聞こえる
「もしかして…キヨくんのこと好きになった?」
「っ……そんな…ことは…、」
「柚月ちゃんは、押しに弱いとこあるよね。」
不意に感じる熱
レトさんの手が、私の手首を掴む
瞳は真っ直ぐに私を見据えて、
囚われてしまったように体が固まってしまう
「俺はキヨくんみたいにはなれへんし、
無理矢理なことはしたくないんやけど、
…そんな余裕、なくなってきた。」
そう言って体を屈めてくると、同じ目線に映るレトさんの顔
驚いて思わず身を引くと、腰に手を回され、更に距離が縮まる
赤く染まる頰が朝日でより鮮明に映るように思えて、
俯くことでしか隠す手段が思い付かない
「レトさん…、あの…、」
「柚月ちゃんのこと、大事にしたいって言うたけど…。
なんやろ、この気持ち…
独占欲?」
チラッと見上げれば、お互いが瞳に映し出される
間近で私を見つめる瞳は甘くもあり、苦くもあり
吸い込まれそうで
委ねてしまいそうで
怖くなる
わからなくなる
「俺もあんまり我慢強くはないから。」
鼓動が何重にもなって耳に響く
レトさんの目がゆっくりと閉じられていくのを見届けると、私もぎゅっと瞑る
一瞬の迷いの後
私は顔を横に背けた