《おそ松さん》なごみ探偵・謎の仮面と洋館の幽霊(R18)
第2章 謎はブラックに始まる
「あ! よく見たら、この子の前足、靴下履いているみたいですね! 可愛い〜」
猫の足を指差すと、まるで自分が褒められたかのように、男性の顔がみるみる綻んだ。かなり嬉しそうだ。
「あんたもそう思う? 足の先だけ白いの可愛いよね……。ミーコの靴下、俺も気に入っているんだ……」
「ニャー」
タイミングよく『ミーコ』も返事をした。
「ふふっ、ミーコちゃんも自分の靴下を気に入っているみたいですね」
男性も「うん」と答える。
私たちは顔を見合わせて笑った。
「あんたも猫、好きなの……?」
「はい。マンションなので飼ってはいないんですけどね」
同じ猫好きだからかな? 初めて会った人なのに、話していると落ち着く気がする。
夢中になってミーコを撫でていると、男性は改めて私をジロジロと見回した。
「ねぇ、あんた、工場のお客さん? 中に入るなら、あそこの守衛室で門を開けてもらって」
小さな建物を指差す。
「あぁ! そうだった! 現場!」
私は慌てて立ち上がった。
うっかり忘れていたけど、和んでいる場合じゃなかった。ただでさえ、遅刻してるのに!
……ん? でも、考え方を変えれば、どうせ怒られるんだから、ちょっとぐらい寄り道したって構わな……いやいやいや、構わなくない!
「どうしたの? あんた、大丈夫……?」
立ったまま固まった私を不審そうに見上げる男性。
「いえ、大丈夫です。すみません! 急いでいるので行きますね!」
男性にもう一度お礼を言って、教えてもらった守衛室へ急ぐ。守衛さんに事情を話すと、すぐに門を開けてもらえた。
中に入ろうとして、ふと気になって振り向く。
男性はまだ同じ場所で屈んだまま、こちらを見つめていた。
そういえば、名前を聞くの忘れたな。もう少し話してみたかったかも……。
ミーコが可愛いらしい欠伸をして、男性の膝の上に満足げに収まるのが見えた。
私は後ろ髪をひかれつつ、工場の中に入った。