《おそ松さん》なごみ探偵・謎の仮面と洋館の幽霊(R18)
第2章 謎はブラックに始まる
「飛び出しちゃだめだよ。交通違反したら逮捕して連れて帰っちゃうよ〜?」
刑事ぶってお説教してみると、ニャーと呑気な返事が返ってくる。
全くこっちの気も知らないで。ふわふわの毛並みを私は思う存分、撫で回した。
「そう言うあんたこそ……大丈夫だった?」
突然、頭の上から低い声が降ってきて、私は驚いて手を止めた。見上げると、作業服姿の猫背の男性が立っている。
「大丈夫です! すみません!」
慌てて立ち上がった。
いつからいたんだろ? 一瞬、猫が喋ったのかと思っちゃった。素で喋りかけてたの見られちゃったかも、恥ずかしい。
「大丈夫ならいいけど。俺がちゃんと見てなかったから……そいつが急に道に飛び出しちゃってごめんね……」
男性は地面に視線を落としながら、ボソボソと喋る。少し聞き取りにくい。
「飼い主さんですか?」
「違うけど……工場の裏庭にいつもいるから、俺が餌やってる……」
男性が下を向いたままずっと喋るので、私も自然と足元に目がいった。
工場の人なのかな?
作業用の靴には穴があき、かかともペチャンコに潰れている。顔を上げると、シミだらけの作業着と形の崩れた帽子が目に入った。
クマの目立つ虚ろな瞳に無精ひげ。年齢は私と同じくらい? とにかく疲れているように見える。仕事がかなり忙しいのかもしれない。
そんなことを考えていると、足元の猫がまた頭を擦り付けてきた。気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
「ふふっ、この子、人懐っこいですね」
思わず頬が緩む。
「うん。最初は全然寄って来なかったんだけど、毎日餌を置いていたら、今ではこんなにデレデレ……」
男性は屈んで愛おしそうに猫を撫でた。猫はコロンと転がり、甘えたようにお腹を見せる。