《おそ松さん》なごみ探偵・謎の仮面と洋館の幽霊(R18)
第2章 謎はブラックに始まる
汗で滑るハンドルを握り直し、私はため息をついた。
延々と続く山道にだんだんと不安になってくる。もしかしたら、どこかで曲がる道を間違えたのかもしれない。
とはいえ、ここまでの道のりを思い返してみても、思い当たる場所はなかった。
――8月のある日の午後。
新人刑事の私は、ある事件現場に向かっていた。
「急行せよ」と連絡を受けてから、すでに1時間。みごとに道に迷った私はいまだに山の中にいる。
長いあいだ研修や実習を受けてきて、ようやく先週、捜査一課のチョロ松警部のチームに配属されたのに。
私にとっては今日が初めての現場仕事。
このまま着かなかったらまずい。絶対にまずい。
トド松先輩の怒った顔を思い浮かべると、ハンドルが余計重くなる。
不安な気持ちを抑えながら、何度目かの大きなカーブを曲がると、やっと視界が開け、ついに黒い建物が見えてきた。
今回の事件現場『ブラック工場』だ。
怒られるのは免れないだろうけど、とりあえず辿り着くことはできた……。
ホッとして、スピードを落とした瞬間、突然、目の前に白黒柄の猫が飛び出してきた。
「わっ!?」
とっさに急ブレーキをかける。
間一髪。
車は猫の手前でなんとか止まった。
あっぶな〜! 本当に心臓が止まるかと思った。
エンジンを切ると、私はすぐに運転席から飛び出した。驚いて動けないのか、まだ車の前で固まっている猫に駆け寄る。
「大丈夫!?」
猫はニャーとひと声鳴くと、体を足に擦りつけてきた。
しゃがみ込んで見回してみるが、どこも怪我はしていない様子。
「よかった……」
ホッとして、私は猫の頭を撫でた。