《おそ松さん》なごみ探偵・謎の仮面と洋館の幽霊(R18)
第2章 謎はブラックに始まる
「ごめんね、ゆりくん。もう謹慎は解けたから大丈夫」
「じゃあ、もう現場に出られるんですね!」
チョロ松警部は、もったいぶったように咳払いをした。
「うん。でも、謹慎って言っても、意味のある停滞というか、未来への投資って言うか、損して得取れって言うか、なんだったら、むしろ自分から望んで謹慎になったぐらいの勢いだから」
「え? 自分から?」
私が驚いて聞き返すと、チョロ松警部は慌てて言い直す。
「いや、自分からというのは言い過ぎだけど、それぐらい意義のある充電だった、ということだよね」
「は、はあ……?」
「もちろん、僕も一刻も早く現場に戻りたいと思っていたよ? 何せ溜まったアジェンダがタイトなスケジュールで、バッファもなくてパラで進んでいたからね。もちろん僕は、全てのタスクにフルコミットだから、メイクセンスしたとはいえ、辛いところだったよ。でも、謹慎中だってちゃんと考えていたんだよ? にゃーちゃんのライ……仕事のことをね」
「はい……?」
だめだ、何を言っているのか全く分からない。
チョロ松警部という人は、たびたびこんな話し方をする。
トド松先輩はすっかり慣れているみたいで、警部がこんな風に話し始めると「あーはいはい、また出たよ。自意識ライジング」と鼻で笑って、聞き流す。
まだ慣れていない私は、ついつい警部のライジングに真面目に付き合ってしまうが、当然話の先にはオチなんてない。
大体、チョロ松警部が謹慎になったのも、警察庁の幹部の前で、自意識を思いっ切りライジングさせちゃったせいだ。
初めは、幹部の方々も警部の話に耳を傾けてくれていたらしい。
しかし、チョロ松警部が長々と警察の仕事について語り、最終的に
「まずは『シェーチューバー』になって、とりあえず動画投稿で有名になるところから始めようと思うんですよ!」
と言った辺りで、とうとう堪忍袋の尾が切れた。
チョロ松警部は、『夢を語っただけで一週間の謹慎処分』という警察始まって以来の記録を打ち立ててしまったのだ。
一週間ぶりの上司ライジングにげんなりしていると、工場の従業員らしき男性二人が歩いてきた。