第5章 素質
「 お前は…本当に馬鹿だな。」
つい口から出た言葉に
あらたはびっくりした様子で
こちらを見る。
入れたお茶を手渡し、
少し離れたところに座ると
『…あなたは俺を嫌ってるはずじゃ?』
そう呟いたあらたの
透き通った声が寝静まる夜の
この部屋に響き渡る。
その言葉に我ながら
誤解を招く行動をしたのだと
申し訳なさが込み上げてきた。
別に信長様の敵だと
ずっと思っていた訳でもない。
表情を変えないあらたに
もしかして…と思うところもあったが
五百年先から来たことと
俺たちの名を知っている事、
あらたの行動に不審な点がなかった事で
その事は解決していたのだ。
だが、その反対に
あらたの表情はいつも変わらず、
家康や三成、政宗が懐いても
少し距離を置くようにするその姿。
この地に慣れなければいけない
ひたむきな姿勢はあるものの
ふとした瞬間に空をずっと見上げたまま
そこから動くことがない事もあった。
ー 何を考えているか今もまだわからんが…
お茶を飲み干すと
この事は信長様に報告することを告げ
箪笥からあらたに
新しい夜着と手ぬぐいを渡す。
「 これに着替えろ…そんな夜着着てたら
誰に見つかるかわからないだろ?」
『 ありがとうございます…』
それからもう一つの違和感。
「 それと…敬語じゃなくてもいい。」
三成や家康とは違う…
俺との距離感。
あらたを部屋に残し、
天守へ向かう。
きっとそこには光秀も居ることだろう。
これから先、話すことは
俺と光秀、そして信長様しか
今はまだ知らない話。