第16章 それぞれの生きる道
樹輝side
嘘だ……嘘だ!
こんなの現実じゃない!
夢だ!
月は背中から大量の血を流しながら倒れた。
俺は月を抱き上げた。
俺の服はすぐに赤く染まった。
「月……何で治らねぇんだ……おい……」
月の頬に手を当てながら尋ねる。
「ゴポッ……さっき……能力使いすぎちゃって……」
何となく記憶はある。
俺が壊した街を月が直したんだ……
あんな事したら体力余ってる方が不思議だ。
「ごめん……ごめん、月……俺のせいで……」
目からは涙がポロポロと流れ出て、月の頬へと伝っていく。
「樹輝は……悪くない……僕は死んでも樹輝を……守りたかったから……」
「俺が……お前と出会わずに……陽と出会ってればこんな事にはならなかったのに……」
「何……言ってるの?……樹輝と出会えたから……僕は生きる事に幸せを感じたんだよ……」
「……俺は何もしてない……」
「ねぇ……お願いだから泣かないで……僕は死にたかったんだよ?……ずっと……夢が叶うんだよ……」
そうだ……月はずっと死にたがってた。
けど……今は生きる事に幸せを感じるって……
「……樹輝……僕、樹輝が願ってくれたようにちゃんと笑えてる?」
その月の顔は輝いて見えた。
死際にいるっていうのに……こんなに笑えるなんて……
「あぁ……」
俺も涙を拭き笑顔を見せた。
「笑った……その顔が1番好きだよ……」
「俺もだよ……」
「……死にたいって思ってたはずなのに……変だ……今は……死ぬのが怖い……」
月が俺の首に腕を回そうとしてきた。
その手は震えていて、俺には届かない。
届くのを待つことなく俺は月にキスをした。
「……お兄ちゃんに……ちゃんと僕は幸せだったって……伝えてね……大好きだよって……」
「分かった……」
「……僕、生まれ変わったら樹輝に会いに来るから……待ってて……それまでは……おやすみ……」
「……あぁ……おやすみ……」
俺は最後まで笑って、月と最期のキスをした。
月の手は力が抜けて俺の首から離れてしまった。
その瞬間に懐かしい悲しみが込み上げてきた。
両親が殺された時と同じ……
月が長い眠りについた後、俺は声が枯れるまで泣き叫んでいた。