第10章 ペンダント
樹輝(幼少期)said
「おとう……さん?やだ……」
お母さんが僕の口を塞いだ。
そうだ。
何があっても声を出さないって約束したんだ。
お母さんは僕を抱え、押し入れの奥に隠してあった扉を開けてそこに僕を入れた。
「いい?樹輝。お父さんが言ったことちゃんと守るのよ?」
「お母さんは?どこ行くの?」
お母さんは何も言わずただ微笑んで扉を閉めた。
「……あなたは生きて……そして幸せになって……」
微かにそう聞こえた。
僕はしっかりと言葉が聞きたくて少しだけ扉を開けた。
けど、その瞬間にまた銃弾の音……
そして、お母さんも倒れ込む……
「うっ……あな……た……」
まだ声がする。
その後すぐにまた銃弾の音……
やだ……怖い……聞きたくない……
僕はお父さんが教えた通りに耳を塞いだ。
声も一切出さず、ただ耐えた。
でも、身体の震えだけは我慢することができなかった。
どれくらい経ったかな?
もう外は明るい。
恐る恐る押し入れから出る。
目の前には血だらけになってうつ伏せに倒れるお母さん。
「おかあ……さん?」
身体が冷たくなってる……
あの優しい声や笑顔も……ない。
お父さんは?
お父さんならまだ……
玄関の方に行こうと扉を開けた。
「お父さん……?」
息してない……身体も冷たい……
あの大きな手で優しく撫でてくれない……
僕、声出さなかったよ?
お父さんの言うとおりにしたよ?
偉いでしょ?
ねぇ、撫でてよ……
「おとう……さん……うっ……あぁぁぁぁ!!」
お母さんとお父さんは死んだということが分かって涙が我慢出来ず溢れ出てきた。
やだ……なんで……殺されたの?
僕だけ……生き残って……どうして生きていけばいいの?
もう涙も出なくなって、声も出なくなった。
感情も無になった感じがした。
僕は再び押し入れの中に入って蹲っていた。
何も考えたくなかった。