第10章 ペンダント
樹輝(幼少期)said
「ただいまー」
「お父さん!お帰りなさい!」
僕はお仕事から帰ってきたお父さんに抱きつく。
いい臭い。
お父さんは凄くやさしくて、カッコイイ。
僕も大きくなったらお父さんみたいになりたい。
「ただいま、樹輝。今日もいい子にしてたか?」
「うん!」
お父さんが頭を撫でてくれる。
大きくて暖かい手。
安心する。
いつもみたいにテーブルを囲んでご飯を3人で食べる。
こんな毎日がずっと続いて欲しい。
「樹輝っ!」
「ん?……お父さん?」
まだ外が暗い。
時計の針は短い針が1番上を向いている。
「樹輝、よく聞け。これから何があっても声を出すな。怖くなったらこうやって耳に手を当てるんだ。いいな?」
「うん……分かった。」
何か外がうるさい気がする。
「じゃあ、樹輝、目を瞑って。」
僕は言う通りに目を瞑る。
あれ?何か温かい?
なんだろ。
「もう開けていいぞ。これからはお母さんの言うことをしっかり聞くんだ。いいね?」
「……お父さんはどこ行くの?」
「………お仕事。すぐ帰ってくるから。」
お父さんはそう言ったけど……帰ってこない気がする。
もう会えない気がする。
でも、言うこと聞かなきゃ。
「うん……絶対だよ?帰ってきてね。」
「……お父さんは嘘ついたことないだろ?約束だ。」
そして、僕の頭を優しく撫でる。
お母さんは悲しそうな顔をしていた。
ドォーン!
急に玄関の方で凄い音がした。
「な、なに?……ねぇ、お母さん、お父さん。なに?」
お父さんは何も言わず立ち上がり、部屋を出ていった。
その瞬間、騒がしい音が鳴り響いた。
拳銃の音だ。
そして、僕は見てしまった。
少し開いたままの扉からお父さんが血だらけで倒れる姿を。