第74章 キミのトナリ オレのトナリ(及川徹)
「…ゴメン。
チャント手当したから
もう服着て来な
出よう?
こんなトコロ
長く居るトコじゃないよね」
組み敷いていた
姫凪を解放して
取り出した救急箱の中身を
きれいに片付け
『徹…?』
「早くしなよ
せっかく止まってあげたのに
無駄にしないでくれるかい
また及川さんに
襲われても良いのかなー?」
わざと戯けて笑って見せる
『そんなわけないじゃない!
出よう!すぐ出よう!
着替えて来る!!』
バタンと大きな音を立てて
閉まるドア
衣擦れの音が
微かに聞こえて来るのに
「…あの元気はドコ行ったのさ
諦め良すぎじゃない?」
トオルくんはションボリして
俺の心を映してる様。
大好きな子に言われる
大嫌いって
こんなに堪えるんだね
初めて知ったよ
知りたく…無かったよ
ポタリと垂れる涙は
姫凪を好きだと
気づいた日まで
記憶を遡らせる
そう、それは…
俺に初めて彼女が出来た時。