第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
震える手で掛けた電話
コールを鳴らした相手は
木兎さん
お願いだ、出てくれよ
佐久早でも孤爪でも
誰でもいい
木兎さんの隣が
姫凪さんじゃなかったら
誰でも良い
俺の不安を消し去ってくれ
願う俺を嘲笑うかのように
コール音だけが響き
声に繋がる事はなく
吐いた溜息が苦しそうに
静寂に消えて行った
結局眠れないまま
朝を迎えたけど
折り返しもLINEもないままで
俺の不安が
膨らみきって
悲しいストーリーへの
カウントダウンは始まった
砂時計の砂が下に落ちる様に
いつもの日常は
ゆっくりだけど確実に
崩れて行った