第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
久しぶりに見た顔は
記憶より少し大人っぽくて
あの日の甘い匂いも
今日はしなくて
自分を絡みつけたい気持ちが
雨音と共に激しくの心の中を
暴れ回って掻き乱す
『…傘、貸してあげる』
駄目だ。
一緒に居られない。
「…姫凪さんは?
結構降ってきたのに…」
『濡れたい気分だから。
じゃあね、寄り道しないで帰りなよ』
”寄り道しないで”
その裏に込めた思いが溢れる前に
「姫凪さん!」
『クロくん、ごめんね?
私…には無理。
キミの欲しい物は与えられない』
離れてしまわなきゃ
偶然で満足しないと。
行かないでと
言う勇気がないなら。
私の願いは一つだけ
それが叶わないなら。
『…また、見かけたら声かける
さよなら』
次の偶然を待つしかないよね
押し付けた傘は
無意識に期待を掛けた次への糸
繋がるなんか思ってない
でも、もし、もしかしたら…
なんて。
ないよね?
キミがその糸を手繰ってくれるなんて。