第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
あの雨の日
軽率に招き入れてしまった事を
「姫凪さん、ただいま~」
そう言って開かれるドアに
浮かれる度に後悔する
『また、お父さんと喧嘩したの?
お腹は?空いてない?』
「…うるさいですぅ
腹は減ってマス」
甘えた声にドキドキする心臓を
確認する度に泣きそうになる
『先にお風呂入ったら?
部活してきたんでしょ』
「相変わらず用意周到
オトナですね~」
『クロくんよりはね』
なんでもないフリする度に
嘘つきな自分に嫌気がさすのに
それでも
ドアが開くのを待つ私は
自分でも重たくて
身軽に来ては出て行く
クロくんに心を悟られない様にするのが
精一杯だった
ご飯を食べて少し話して
「姫凪さん、眠ぃ…」
クロくんとベットの上へ
何にもない
ただ眠るだけ
その先は望んじゃいけない
そう思って大きな彼の手や身体を温めてた
”いつか”を密かに願ってる事を
必死に隠しながら
私はクロくんを待ってた
まさか私だけが求められてないなんて
思うわけもなく。