第61章 クロ猫と傘と恋(黒尾鉄朗)企画転載 完結
『クロくん、どうしたの?
今日は一人?』
姫凪さんの声にハッとして
顔を上げると
『…傘、貸してあげる』
ニコリと俺に微笑む顔
「…姫凪さんは?
結構降ってきたのに…」
『濡れたい気分だから。
じゃあね、寄り道しないで帰りなよ』
でもその目は
あの日の様に悲しみに縁取られて
俺を見てた
「姫凪さん!」
『クロくん、ごめんね?
私…には無理。
キミの欲しい物は与えられない』
睫毛の手前で光った涙が
『…また、見かけたら声かける
さよなら』
落ちると同時に
姫凪さんは傘を抜け
涙は雨と混じった
追いかけられない伝えられない
俺の本当の気持ちなんか
この人には
ただの重荷なんだ
不釣り合いな傘をさして
携帯に手を掛けた