第6章 ♢キスしてそれからは【木葉秋紀】
…深い事はないにもない。
最終日の合宿中の夜、疲れすぎてしまっていたのかよく眠れず、なんとなく外に出ようとしたのが始まり。
他のマネを起こさないようにしながらゆっくりと部屋を出る。音を立てないように、ひっそりと。
するとそこには先客がいた。彼は私に気づいてゆっくりと振り返る。
「…あ、前田じゃん」
「なんで木葉がいるの」
外に出てみると1人、ポツンと座っている木葉。
最終日でよっぽど疲れているはずなのに寝なくていいのだろうか、こいつは。
あんだけ試合しといて不思議なものだ。
木葉とは同じクラスで仲も割といい。
男子の中じゃ一番話すし、部活も同じだから話だって合う。
いわゆる異性の友達ってやつだろう、一般的に言うと。
物音1つもしない空間にいる彼の隣にちょこんと私も座った。
「眠れねーの?」
「そ、疲れてるはずなのにねー。木葉も?」
「おー、なんか目が覚めちゃってさー」
そう言って彼はぼーっと前を向く。
特に何も考えてなさそうなこいつの顔は、試合してる時とは違って馬鹿そうだ。
ちょっとつり上がっている目も迫力がない。