第3章 帰還
「チェックアウトお願いします」
あの後、手早く身支度を整えた私は、ホテルのチェックアウトをしていた。
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
受付のお姉さんが手続きをしている間、頭の中でこれからの動きをシュミレーションする。
考え得る最悪のケースの中でも特に最悪なのは、
「お待たせ致しました。では、キーをお預かりします」
脳内で考え事をしていても意識は常に外に。
戦いの世界に身を置く者なら殆ど全員が無意識でやっているだろう警戒をしつつ、私は自然な手つきで鍵を渡した。
「承りました。本日は当ホテルにご宿泊下さり、誠にありがとうございます。また近くにお立ち寄りの際はどうぞ御贔屓に」
マニュアル通りの丁寧な対応を受け、ホテルのチェックアウトを済ませると、体重をふわりと包んでくれるような重厚で豪華な絨毯の上を歩いて私はエントランスを後にした。
外は快晴。
「メア、ここからが正念場よ」
一番最悪なのは「忘れられている」こと。
シルバ様に限ってそれは無いと断言できるだろうが、私の実力が足りないと判断されればそれでお終い。
恐らく、シルバ様が私をゾルディック家に迎え入れたのもただの気まぐれ。
少しでも期待外れだったなら、即、死が待ち構えているだろう。
15年間で私がどれだけ成長したか見てもらえるチャンス、逃す訳にはいかない。
「さて、行くとしますか」