第3章 帰還
やあ、いい暗殺日和だね。
え?俺?
俺はイルミ=ゾルディック。かの悪名高い暗殺一家のゾルディック家の長男22歳。
今はターゲットを暗殺する機を伺っている最中。
漆黒の闇が辺りを包み込み、街の中心部の喧騒が嘘のように、まるでここだけが世界と断絶されてしまっているのではないかと錯覚するほどの静けさが訪れる。
今回の暗殺のターゲットが乗る車がゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ターゲットが車から降りた瞬間、俺は手際良くターゲットのボディーガード数人を針で殺すと、気配を完全に消してターゲットの背後に立った。
「なっ?!……何が起こっ……て…」
ターゲットが人生最期の言葉を言い終える前に、俺の針がその首筋を貫いた。
ターゲットが音もなく倒れていく。
今回のターゲットは裏社会の要人。そんな人間が人通りのある場所を根城にする訳はなく、目撃者はいない。
お仕事終了。
既に骸と化したモノから針を抜き取る。
すると、ふいに静寂を打ち消す電子音が俺の懐から響いた。
「もしもし」
『俺だ。ターゲットはどうなった』
名乗りすらせず、要件だけを簡潔に告げる機械。
父のそういうところは嫌いではなかった。
「ああ、父さん。今終わったとこ。」
『そうか。俺もちょうどそのすぐ近くで仕事をしていてな。空港に帰りの飛行船を呼んであるから、終わったなら一緒に乗っていくといい』
「…分かった。すぐ行くよ」
そう短く返事をすると、通話を切った。
俺は骸たちに背を向けると空港に向かって歩き出した。
すぐに関係者が異変に気づき、あいつらを殺した犯人を血眼になって探すことだろう。
一流の暗殺者は証拠を残すような真似はしない。
まあ、仮に見つかったとしても返り討ちだけどね。
明日は久々の休みだから、キルと一緒にいられるな。
可愛い弟の事を考えると、自然と足は早まる。
そんな俺を見ていたのは、漆黒の闇だけだった。