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太陽が咲いた

第1章 たんぽぽ


 ***

 ぽたり、と額から汗が流れ落ち、床の上に音もなく沈み込む。緊張のため吐きだした荒い息が、埃っぽい地下室に立ちこめた。
 ディートリヒが人体錬成の実験を開始してから10か月の時が経っていた。あのあと素材の腐敗には成功したが、そこからが長かった。
 フラスコを一定の温度で温め続けなければいけないので外出する頻度が減った。ただでさえ引きこもりがちだったのに、更に地下室から出なくなった。

「あともう少しで……」

 低く呟いた声も彼の耳に入らない。目の前には大人が両手で持ってもはみ出す大きさのフラスコ。底を火でゆるやかに熱しているため、窓のない地下室には熱がこもっていた。中は白く煙りよく見えないが、今のところ失敗していないことは確かだった。

「これでいい……いいんだ……」

 今までの失敗が嘘のように順調だった。失敗するわけにはいかない。掃除に来るアルベルトとアニータの訝しげな視線をかわしながらも、やっとここまできたのだ。
 かすれた声に合わせて、煙の向こう側で何かがぐるりとうごめいた。ハッと目を見開き、フラスコを凝視する。充満していた白い煙がゆっくりと薄くなっていく。
 硬直するディートリヒの目の前で、完全に煙が晴れ、底の方に小さな塊だけが残った。

「……これ、は……」

 呆けた表情で震える手をフラスコに伸ばしかける。底にあった、いや、いたのは【人間】だった。大きさは10センチほどだが、よく見ると手、足、顔のつくりまでが紛れもない人のそれと同じである。また、顔立ちや体型からして少女の姿であることは確かだった。
 ディートリヒがどさりと座り込むと、背中が机の上に当たり、隅に置いてあった器具や本が次々に落ちてしまう。その音を聞いたのか、横たわっている【彼女】がゆっくりと目を開けた。
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