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太陽が咲いた

第1章 たんぽぽ


 ***

「くそっ、また失敗だ!」

 ディートリヒの怒りの声が地下室に響き渡る。ダン! と握りしめた拳が机に叩きつけられ、器具がその振動で飛び跳ねる。
 目の前の暖炉の中にはバラバラに砕け散ったガラスの破片。微妙な火加減を間違え、貴重なフラスコを割ってしまったのだ。濁った液と草と思われる欠片がガラスと絡み合い、先ほどまで燃えていた火をかき消している。

「……はぁ」

 重く長いため息を吐いたディートリヒは椅子に荒々しく座る。実験を開始してから2か月が経っていた。既に秋から冬へと変わっていた。
 錬金術師である彼は、今までに沢山の実験をしてきて、それなりの経験もあった。にも関わらず、この2か月の間失敗の連続なのだ。
 最初の実験は、開始してから1週間後に突如中身が黒ずみ、フラスコ共々使い物にならなくなってしまい、その次の実験は40日待ってみても何も起こらなかった。そして今回は初歩的なミスによる失敗。

 ホムンクルスを作るにはその元となる材料をフラスコに入れ、40日間放置し腐敗させなければならない。一見簡単そうに見えるが、予想以上の難易度の高さにディートリヒは頭を抱えていた。
 しかも、フラスコの中に人型の「何か」ができていなければならず、更にそこから40週間――約10か月の間、馬の胎内と同じ温度で温め続けなければいけないのだ。 
 長い時間をかけなければいけないからこそ、序盤での失敗にディートリヒは苛立ちを隠しきれない。やはり人間の体を作るというのは不可能なのだろうか。

「……もうこれで最後にしよう」

 そう呟いて、こめかみに指をあてると、肩から力を抜いた。疲弊しきった表情で机の上に置いてあった本に手を伸ばす。既に丸暗記してしまった作成方法をゆっくりと目で追う。

「分量を少し変えてやってみるか……」

 ディートリヒは先ほど全て使ってしまった材料を揃えるために、椅子から立ち上がり、地上へと向かった。
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