第1章 たんぽぽ
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「賢者の石……ホムンクルスか……」
数時間後、本を半分ほど読み終えたディートリヒは興味深けに呟いた。内容はフラスコの中で人間を作る方法とその理論について書かれていた。
錬金術とは鉛や銅を金や銀に変えようとする試みのことで、中には金属だけではなく人体錬成といわれる人間の肉体の生成やそれらをより完全な存在にすることもある。
そして、錬金術において最も難しいとされているのが『賢者の石』の生成だった。それがあれば、全ての物を自由に錬成できるとされているが、未だに作ったものはいないとされている。
また、賢者の石を使わないで人間の肉体や金銀の錬成をするには非常に高度な技術が必要とされているため、村医者を兼業しているディートリヒのような錬金術師は薬の生成程度にしか錬金術を使用していなかった。
しかし、もしこの本に書かれている人体錬成が可能だとしたら。人間の体を新しく作れることができるのであれば、骨折や打撲などで破壊された組織をより早く再生できるようになるのではないか。そう思ったとき、脳裏に双子の兄妹や村人たちに姿が浮かんだ。
ディートリヒはもう一度本の内容を見る。必要なものはハーブなど、手に入れようと思えば手に入れることのできるものばかりだ。
「……試してみる価値はあるな」
そう呟いて、ディートリヒは準備のために立ち上がった。部屋の片づけのことなどとうに忘れていた。