第4章 嬉しい癖に
「たんぽぽ……」
「あぁ、そうだ。もう咲く時期なんだな」
エルフィの細い指がたんぽぽの葉をそっと撫でる。確かめるように、しかし愛おしそうに。
土をもう片方の手で握りしめ、その感触を確かめていたエルフィは顔を上げると、弾かれたように立ち上がり、小川へと足をつけた。ドレスの裾が水にぬれるのも構わずに入っていく。
「これは、川と水。あれはカエデの木だね。それから、クロッカスとスイセン。ディートリヒが持ってきてくれた」
「こら、そんなにあちこち行くな」
一時もじっとしていない彼女を慌てて追う。頬を紅潮させ、枯れ葉を踏んでみたり、木の幹に頬を寄せてみたり、くるくると踊るように走るエルフィを見ながら、ディートリヒは思わず微笑んでいた。
「あっ……」
濡れたドレスの裾を踏み、エルフィが人形のようにぱたりと芝生の上へと転がった。
ディートリヒは、仰向けになってぼんやりと空を見ている彼女のそばに膝をつく。
「大丈夫か」
「…………」
エルフィの顔を覗き込むように見るが、彼女は何も答えない。視線をゆっくりと彷徨わせている。