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太陽が咲いた

第1章 たんぽぽ


「『ちゃんと部屋の片づけをしておいてね』……か」

 先ほどのアニータの言葉を反復する。ディートリヒは家事全般が得意とはいえない。
 料理はかろうじてできるし、時には村人たちと一緒に食べることもあるが、掃除や書物の整理整頓はそうもいかない。
 研究に没頭していると、あっという前に本と書類まみれになるので、それを見かねた双子たちがたまにやってきては掃除をしていく。
 大人の自分が子供に世話をされていると考えると複雑ではあるが、実際彼らのおかげで研究にさける時間が増えたのも確かだ。

「……たまには自分でもやってみるか」

 そう呟くと、先ほど地下で薬を取るはずみに書物などを床に落としたことを思い出した。あまり気乗りのしない足で地下へと赴くと、床に膝をついて、散乱した書物を手にとり作業机の上に置いていく。
 地下室には両親が遺した本やディートリヒが新しく買った本などが乱雑に置かれ、実験器具も大きな作業台に適当に並べられている。作業台の向こうにある暖炉には煤が溜まって、長い間掃除されていないことがよくわかる。

「ん?」

 1冊の本を手にしたとき、違和感を覚えて手を止める。かなり厚みがあるその本は、表紙にたった一言『命の構造』と書かれてあるだけで、著者も何も書かれていないのだ。恐らく両親が遺した本の中の1冊だろう。

――地下室にある本はほとんど読んだはずだったがまだ残っていたのか。

 椅子に座り、手持ちランプを側に寄せる。

「ふむ……」

 一度気になることがあると、他のことがさっぱり頭に入らなくなってしまうディートリヒが、部屋の片づけをやめて読書に夢中になるのにそう時間はかからなかった。
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