第4章 嬉しい癖に
「やはり……」
石の真ん中には穴が開いており、糸くずがその穴を通っていた。以前、ディートリヒがエルフィにあげ、失敗したと思われた賢者の石だった。
「それ、私の……赤くなってる」
「あぁ。賢者の石の完成品だ」
「失敗したんじゃないの?」
「……いや、あれは失敗だったんじゃない。最初に君に渡した石は、完成するための『種』のようなものだったんだ」
『命の構造』には、賢者の石には3つの色があると書いてあった。黒は死を、白は再生、そして赤は完全を意味している。
エルフィの肉体は一度死んだが、それと同時にエルフィはディートリヒの傷を健康な状態へと『再生』していた。その両者が偶然重なり合い、賢者の石を身に着けていたエルフィの体を『完全な体』、つまり人体へと変化させたのだろう。
それが“黒と白が合わさりしとき、完全となる”という言葉の意味だったのだ。
――まあ、人間の体が本当に『完全』かどうか疑問だが……。
ディートリヒは賢者の石を軽く握った。今まで賢者の石の完成報告がなかったのは、一度『肉体の死』を経験し、なおかつ『肉体の再生』も同時に行わなければいけないという、普通なら不可能な過程を経なければいけなかったからだろう。
だからこそ、幻の石として今なお密かに語り継がれ、手に入れようとする者が後を絶たないのだろう。
そして今、ディートリヒはその幻の石を手にしていた。